透明人間の事件簿

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いま、俺は全身をガクガクと震わせながら、怯えてその場に立ちすくんでいた。 ーーー数時間前のことだ。 俺はある朝、いや、正確にはいつかは分からない。寝てる間だったかもしれないし、起きてすぐだったのかもしれない。 透明人間というやつになってしまったようなのだ。 同居する家族にも気づいてもらえず、外に行って人に声をかけてみても気づいてもらえない。 まるで俺の存在が、この世から突然消えてしまったかのようだ。 最初、家族は、俺が朝から姿を見せないことを不審がったが、休日のためどこかに出かけたのだろうと勝手に解釈して落ち着いてしまった。 幽霊になったわけではないようなので、ものや人に触れることはできるようだが、それを実行に移すと、むやみに家族を驚かすだけだったので、無理に気づいてもらおうとするのは止めることにする。 どうしたものかと思うと同時に、このまたとないチャンスを逃すわけにもいかないと、俺はまず透明人間だからこそできるようなことに挑戦してみようと考え、手ぶらで外に出た。 しかし、生まれてこの方しがない、自分で言うのもおかしな話だが、真っ当な生活を送ってきた俺には何か大それたことをしようという気力がわかない。 例え「透明人間」になったとしてもだ。 それどころか高校生である俺は、今日が学校のある日でなくてよかった、欠席扱いになって皆勤賞がパアにならなくて済むと安堵しているところだった。 これだから俺は、学校ですぐ「マジメくん」とからかわれるのだ。 きちっと約束やルールを守っていないと落ち着かない、それを破れば誰かに責められるのが怖くて仕方なくなる。 俺はマジメなのではない、ただの臆病者なのだ。
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