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――国の方もね……もう、かなり参っているみたいなんだよ。報道はされていないけど、今年に入ってから、透明症患者の犯罪事件が、もう2件も起きてる。しかも、犯人はどちらも外国人だ。
無断入国者。スパイ。――国の見解では、そんなやからが少なくともあと50人は潜伏しているだろうって話だ。
――だからって、そんな事が許されると思っているんですか。
――思っているのかって……そんなの、私に言われたって困るんだよ。あくまで国の考えなんだから。
それに、『そういう話』がちらほら出てるっていうのは前々から君に言っておいたはずだよ?
――ですから。俺は、納得出来ません。医院長は、おかしいと思わないんですか。
――だから、もう、なんべんも言わせないでくれよ。納得するとかしないとか、そういう状況じゃないんだよ。決まった事なんだ。それを我々にどうこう出来る権限なんてない。
ただな、国の言い分は間違っちゃいないよ。今のような『当たり障りのない研究』を続けていたって、この先何年経とうが何も分からないままだ。それこそ、患者の解剖なり人体実験なりなんなりしていかないと。
……とにかく、国はこの病気の発症メカニズムを、原因を、治療法を、一刻も速く解明しなければと考えている。そういう事なんだよ。
もし、どこかの国が『透明症患者を自由につくり出す技術』なんて確立させた日には、どうなる? この国は終わりだ。
そうならないためにも、この病気のさらなる研究をして、対策を立てなければならない。多少の犠牲は、もう、やむを得ない。人権どうのと言っている場合じゃないんだろう。
な、偏差値の高い君なら、分かるだろ?
――……いつですか。
――あん?
――国が、透明症患者専用の実験施設をすでに完成させた事は知ってます。あそこが正式に稼働し始めるのは、いつなんですか。
――さあね。だが、法案が可決されるのはもう秒読みだろ。それまでの辛抱だ。そうなったら私も君も、ようやく肩の荷を下ろせる。後の事は、すべて国に任せておけばいい。
ただそれまでは、くれぐれも『彼女』に刺激を与えてくれるな。いつも通りに接しろ。相手は透明人間なんだ。何か感づかれて脱走でも計画されてら目も当てられん。
分かったね、ナミカワ君……。
…………
……
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