・透明人間は人に憧れる

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―― ― ――言葉が、何も出て来なかった。 そのうち、足に力が入らなくなって、ぺたん、と床に座り込む。 その床は、わたしが知っているどんなものよりも……硬くて、冷たかった。 呼吸が激しくなる。辺りを見回す。 そこには、どこまでも続く闇が広がっている。 頭の中を、黒々とした何かが、這いずり回る。 目頭が、熱くなる。 意識していたわけでもなく、ただ流れるように、涙が、こぼれ落ちる。 わたしは、ぎゅ、と膝を抱えた。 「……」 ――おまえ、何かやってみたい事はないか。 昼間公園で聞いた、ユウの声がよみがえる。 そして、最近ユウのようすが、なんとなくおかしかった事も思い出す。 ――ユウはきっと、こうなる事を、全部、知っていた。だから、何かやりたい事はないのか、なんて訊いてきたんだ。 『最後』に、何か―― 「…………」 指が、ぴく、と動く。 わたしは無意識で、着ていたパジャマのボタンに、指をかけていた。 ――今。ここで身にまとっているものをすべて剥がせば、わたしの事は、『誰にも視えなくなる』。 その状態なら、きっとこの病院から抜け出せる。 そうすれば、わたしは―― 「……っ……」 ……でも。 そうして、逃げて、『いったいどこへ行く?』 『生きて、どうするの?』 わたしの居場所なんて、このセカイの、どこにも、ない。 何も、ない。 だったら……せめて、誰かの、役に立った方がいいじゃないか。 解剖でも、なんでも、してもらえばいい。 それで、この病気の事が少しでも分かれば……わたしのような想いをするヒトがひとりでも救われれば……それで、いいじゃないか――
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