・透明人間は人と生きる

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わたしの1日は、ラジオの電源を入れるところから始まる。……でも、例外の日だってある。 どうしてなのかは分からないけれど、今日は手元にラジオがなかった。 「……」 ここはいったいどこだろう、と思った。 風。波の音。潮の香り。 ざらざらとした、感触。……砂浜の、上。 肩に、何かが触れる。わたしの隣にも、どうやら誰かが座っているようだ。 わたしは……多分『この人を、知っている』。 まどろみの中、わたしはその人に、ゆっくりと もたれかかった。 「……センセイ。いったい何やってんですか……?」 言いながら、わたしは、少し前の事を思い出していた。 あの時、わたしは病室の床の上で、泣いていた。でも、突然、宙に浮いたのだ。 『誰かに、抱きかかえられて』。 その後の記憶は、あまりない。 でも、今わたしは、ここにいる。 どうやらユウは、わたしの願いを叶えてくれたらしい。 「寒くないか」 「……ん」 「海はどうだ」 「すごく、『キレイ』です」 わたしは体勢を立て直して、手についた砂をはらった。まだ眠気も覚めていない中で、下を向く。 その時『ある事』を思い出して、「……そうだ。『あれ』言ってくださいよ」と、小さく笑いながら言った。 ボクにだけは、キミの事が視えている。 キミがどこに行ってしまったとしても、ボクはキミの事を必ず見つけてみせるよ、という、あれだ。 それを聞いたとたん、ユウは失笑した。そのまま、「あのな」と教え諭すような口調で言ってくる。 「おまえは、あまり多く人と話した事がないから知らないと思うが、そんなセリフを言う男はこの世にいない」 「そうですか?」 「さらに言うなら、そんな事を言われて喜ぶ女もこの世にいない」 「わたしは、うれしいですけど」 「そもそも、おまえには俺の事が視えてるのか?」 「……いえ」 「俺にも、おまえの事なんて視えない。おまえがどこか行ってしまったら、見つかるわけがない。だから、どこへも行くな」 そう言って、ユウはわたしの頭を撫でてくれた。 ――おまえは、何も悪くない。 おまえが、上のおかしなやつらの犠牲者になる事はない、と続けて。 「…………」 わたしは。 ユウの手を、しっかりと握った。
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