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――
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――『先天性透明症』。
それが、わたしが患っている病気の名前だ。
これは前に母から聞いた話だけれど、今から十数年前、わたしがおぎゃあと産声を上げた時、その身体はもうすでに、『透けていた』らしい。
そんなわたしの姿を見て、母は、父は、どんな事を思ったのだろう。どんな気持ちだったのだろう。……それを、わたしには想像する事が出来ない。
ただ、6歳になった頃には、わたしの身体は完全に『視えなく』なった。着ている服だけが宙に浮いているような状態だ。
声でも発さない限り、もはや誰なのかすら、分からない。
しかもこの病気は、それで終わらなかった。
しばらくした頃、わたしは視力も失った。
全身が透明になるという事は、当然『目』も透明になるという事。詳しい事はよく知らないけれど、そうなるとモノを視る事が出来なくなってしまうらしい。
少し前までは強い光ならなんとか感知する事が出来たのだけれど、今となってはもう、何も感じる事はない。
――そもそも、この病気を発症するのは、かなり稀な事なんだ。
当時担当をしてくれていた病院の先生は、なぐさめるでもなく同情するでもなく、わたしに言った。
この国でも患者の数は数えるほどしかいないし、治療方や発症のメカニズムなど、未だ解明されていない部分は多い。
君には申し訳ないけれど、君の身体を、今後いろいろ調べさせてもらう事になるだろう、と。
そうして、もはや当然とでもいうように、あれだけ泣いたのに、イヤだと言ったのに、家族とは無理矢理引き離されて、この病院へと放り込まれて、わたしは今、ここにいる。
――あれからもう、10年という月日が流れようとしている。
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