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「……センセイ。わたしって、『普通の病人』とは少し違うじゃないですか」
以前、ユウに対してそんな質問を投げかけてみた事がある。
いったいなんの話だ、とぶっきらぼうに言うユウにうなずいて、わたしは、ベッドの上で枕を抱えた。
「ほら。普通こうして病院で入院している患者っていうのは、なんというか、具合いが悪いんですよね。身体のどこかが。
けどわたしの場合、別に身体のどこが悪いってわけでもないじゃないですか。この通り、健康そのもので」
「そうだな」
「うん。それなのに、なんで毎日、こうして病室でおとなしくしてなくちゃいけないんですか?
外に出て事故でもしたら危ないからって事?」
わたしの言葉に、ユウは返事をしてくれなかった。
じっと黙って待っていると、しばらくしてから、「これは、おまえがまだ生まれる前の事なんだけどな」と話を始める。
「おまえ、『後天性透明症』って知ってるか?」
「……それは……知ってますよ。もちろん」
後天性透明症は先天性透明症とは違い、今まで普通の人間だったヒトが、突然透明になる病気の事だ。
発症原因は先天性と同じく不明なのだけれど、発症する確率は先天性よりやや高く、また、後天性の方が比較的症状が軽いと言われている。
視力がいくらか残る場合も少なくなく、なんらかのきっかけによって症状が回復する事もあるのだそうだ。
以前ラジオで聴いた知識を披露すると、ユウは別に誉めてくれるでもなく、「そうだ」と小さく返してくる。
そうして、以前実際にあったという、『その事件』について話をしてくれた。
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