・透明人間は人に憧れる

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「いい天気だな」 わたしの隣にいるユウが、つぶやくように言った。 そうですね、と同意して、手袋をした方の手で、ユウの手をしっかりと握る。 そのまま、すり足で、ゆっくりと歩く。 ――日曜日。わたしはユウに連れられ、病院が管理している近くの公園に、散歩に来たのだった。 風が気持ちいい。 まだ桜は咲いていないようだけれど、あちこちから、花のいい香りがする。 景色を視る事は出来ないけれど。わたしはもうそれだけで、とてもいい気分になれた。 「……あの」 「ん?」 「今日は休みの日なのに、連れてきてくれて、ありがとうござました」 「ああ」 「……。けど、わたしだって、毎日あんな部屋の中にいたら、干からびそうになるんですよ? ……でも、ひとりで外に出るのは禁止されてるから」 「そうだな」 「……ていうか、こんなのろのろ歩いてても、センセイ、つまらないですよね」 「そうだな」 わたしの話を聞いているのかいないのか、ユウは一辺倒の返事しか返してくれなかった。……やっぱり、わたしにせっかくの休日を潰されて、怒っているのだろうか。 思えば、最近何か疲れているようすだったし、まずい事をしてしまったかもしれない。 ならばせめて退屈させないように、と、わたしは歩幅を広げて、出来る限り速く歩くよう努力する。 しかしユウは歩調を速めようとはせず、危ないからあまり急ぐな、とぼんやり窘(たしな)めてくるだけだった。
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