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息が荒く、血気盛んとなる尼子軍先陣部隊の将兵たち、その中でまだ若く、戦場の経験が少ない谷口真哉も、ようやく戦場の雰囲気に慣れ始めていて、御子守口の最前線に立ち、飯梨川対岸の島津軍の将兵たちを見据えていた。
そんな真哉に気付き、伊藤善左衛門が真哉に歩み寄り。
「肩に力が入っておりますぞ」
そう真哉に善左衛門は声をかけた。
すると真哉は善左衛門の方へと顔を向け。
「そう見える…」
そう真哉は言ってから更に。
「奴の事…移香斎の事を考えていたら自然と肩に力が入っていたのか…フッ」
そう真哉は続けて、鼻で笑うと更に。
「よくじっちゃんに言われてたなぁ~。お前は自分と互角か強いと感じた相手と試合をする前は何時も肩に力が入いるな。それはお前の短所だから短所は直さねばならないなって」
そう真哉は続け、肩の力を抜く様な仕草をすると。
「肩の力は抜けたかな?」
と、言って善左衛門の方へと顔を向け、ニコリと笑みを浮かべ、これに善左衛門が。
「ええ」
と、頷いた後。
「真哉殿は戦の鍵を握るお方。万全を期されて下され。それと気負いは禁物。回りには某や利家殿。満延殿といった八極拳衆の将たちが控えている事を肝に銘じておいて下され」
そう善左衛門は言い、これに真哉は頷き応じていた。
一方の飯梨川対岸の御子守口に対面する、島津軍の先陣部隊の先鋒部隊、甲斐親英隊には愛洲移香、塚原卜伝、上泉伊勢守の姿があり、移香斎が甲斐隊の先頭に立ち、対岸の月山富田城御子守口を見据えていた。
そんな移香斎に、塚原卜伝と上泉伊勢守が歩み寄り、卜伝が声をかける。
「移香斎殿。気合いが入っておりますな」
この卜伝の声に気付き、移香斎は振り返りニヤリとして。
「気合いが入らぬ理由がなかろう。あの若造と再び立ち合えるのだからな。ワクワクして仕方ないわい」
そう移香斎は言った。
そんな移香斎に伊勢守が言う。
「1人だけ楽しそうでよろしいですなッ。拙者と卜伝殿は指加えて見てろとッ。つまらぬのうッ」
と、伊勢守が不満を漏らすと、これに卜伝が伊勢守を。
「よろしいではないか。この場は移香斎殿に任せ拙者たちは高みの見物をさせてもらおうぞ」
と、宥める様に言った。
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