第1章

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顔色が悪いだけじゃありません。 痩せて目がどろりとしていて、入ってきた私にも気づきません。 私は、震える手でペットボトルとお弁当を1つ棚から取り、レジに向かいました。 「・・・510円になります。」 笑顔もない弟。 私を見ようともしない弟。 きっと、父や母もこの弟と顔をほとんど合わせていないんだ、だから気づかないんだ。 「割り箸はご入り用ですか。」 マニュアル通りに聞いてくる弟に、小さく「はい。」と答えると、弟はカウンターの中の引き出しを開けました。 そして、割り箸を出そうとしました。 おそらく。 なのに、急に手をバタバタと振り始めたのです。 何かを追い払うように。 それから、ようやく割り箸を一膳出し、お弁当と一緒に袋に入れました。 「・・・何がいたの?」 私が怖々声をかけると、ようやく顔を上げた弟は私だと認識したようです。 それで安心したのか、辛そうに訴えました。 「虫が・・・ゴキブリがあちこちに出て・・・大変なんだ・・・割り箸は、さ、ビニールに入ってるから、大丈夫だよ・・・」 そう言いながら、今度はレジの横を手で払いました。
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