第1章

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 玄関脇に植わっている木蓮が街灯に照らされて、ぼうっと白く光っているように見えた。この家にこの花が咲く時期に来たのはいつ振りだろうかとぼんやりと考えながらインターホンを鳴らす。すぐに勢いよくドアが開いて、ひょこっと顔がのぞいた。ついつい職業病で足元を見ると、玄関にあったらしい適当なサンダルを履いている。 「涼ちゃんいらっしゃい」  ぱぁっと花が開くような鮮やかな笑顔に、思わず眩しいものを見るように目を眇めてしまった。ほぼ一年ぶりに会ったにもかかわらず、この姪っ子は俺に無防備に笑いかける。昔から人懐こい子なのだ。 「こんばんは。百合ちゃん、いきなりドア開けたら危ないよ」 「大丈夫だもん。ちゃんと覗いたから。それに涼ちゃんがちょうど来る時間だったし」  家に上げてもらうと、台所で兄が晩飯を作っているのか、おいしそうな匂いが漂ってきた。先に立って歩く彼女の背中でゆらゆらと揺れるポニーテールは、一年でまた伸びたような気がする。大きすぎるスリッパの中で百合ちゃんの小さな足が泳いで、スリッパがパタンパタンと騒がしく音を立てている。歩くたびに見える黒のハイソックスに包まれた土踏まずから踵、アキレス腱へとつながる健やかに伸びるラインが目を惹いた。 「危ないことしてたら兄貴に怒られるぞ」 「あはは、涼ちゃん、内緒ね」  髪の毛を翻して振り返り、人差し指を口の前に立てる仕草は子供のようでいて、どこか女性を漂わせる。それを見てようやく思い出した。あぁ、この子もこの春から高校生か。
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