プロローグ やがて少女は終わりを求めて今宵も嘆く

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   神ハ、告ゲル。  世界の最果てに続く終焉の始まりを――  汝、千の貌を持ち、破滅を喚ぶ七の怪物を従えた名も無き神。  十年前の神々による黄昏。その渦中にあったにも拘らず、汝を見知る者はおらず、神の裁きに終わりが告げられたと同時にその姿は行方を晦ませた。  故に其の神は、畏怖と畏敬と畏れを以てこう呼ばれる。  終告神(エンドアンカー)――終焉を告げ、始まりを連れし伝説の災厄神。  其の名も無き神が、再び終焉を告げるために、果ては新たな始まりを招くように現れたとき……。  ――世界は、更新される。  **――    ――きっとあの赤い夜の日から、この色のない日々は始まったのだと思う。  見上げる夜空が破滅の炎にあぶられ、見渡す人集りがひとつ、またひとつと恐怖の気配を残して消えていく。  終わりゆく世界。報われぬ現実。救いのない酷劇。  それでも人々は唇と喉を震わせ、わななく懇願の手指を闇に彷徨わせた――タスケテ。  連鎖する悲鳴は一筋の光を求め、それは絶叫に変わり、断末魔となって世界を木霊する。  そんな無慈悲なる光景のなかでも、大丈夫、大丈夫と我が身をひしと抱くぬくもりがあった。  人肌のぬくもりは炎の暴虐的な熱を通さず、髪をすく優しき母性の手は安堵を与え、無慈悲な現実を隠す胸は暖かみに溢れていた。  だから、気付かなかった。その優しさの背後に迫る、絶望の影を――。  視界の大部分を占めていたぬくもりが、離れる。  薄く開かれた視界に紅い液体と空舞う胴体が映る。地面にごろりと広がる紅黒い湖、こぼれ散らす臓物、黒を失った眼球が焦げたアスファルトに転がってこちらを見つめて、  ――イキ、テ……。  願いだけが、幼い鼓膜を打った。  優しさもぬくもりも、光も救いも、ただただ理不尽で一方的で残酷な現実と、それを作り上げた怪物たちによって打ち砕かれる。  怪物が嗤う。高いのかも低いのかも判然としない喉を震わせて、その哄笑を赤い夜に響かせる。  いまでも、深く深く、奥底の基底で、その時の光景が胸を焦がしていた。
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