プロローグ やがて少女は終わりを求めて今宵も嘆く

3/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
『仕事デス』  無情にぬくもりを連れ去る黒い雨。伸びてきた前髪の隙間からそれを眺めていた少女は、その影のような男の声によって、追憶の彼方から連れ戻される。 『彼の憎き悪神――終告神と思しき容疑者を遂に特定しました。アナタには現在請け負われている異常現象と騒動の調査に加え、容疑者の監察をお任せしたいと考えておりマス』  影の男より享け賜わる預言に、少女の蒼の虹彩が向く。  前髪に隠れた静謐色の瞳は波打たず。ただ透徹と空虚で尽くされた処女の瞳は罪に濡れ、反転して手に握る紅き暴威の結晶は罰に滴る。  それは芸術的なまでに美しく、触れがたく、儚い立ち姿。  その虚ろな少女へ、影の男は一枚の写真を授ける。 『其の者こそが、終告神最有力容疑者とされる人物―――名を、明星悠麻(あけぼし ゆうま)と申す少年でございマス』  詰襟の学生服をかったるそうに着崩す心持ち丸い背中の少年。眠たげに細められた眼は俗に三白眼と呼ばれるものでお世辞にも愛嬌のあるものではない。    盗撮だと一目でうかがえる撮影角度にその焦点は向いていない。実に注意力に欠けた、そしてあまりに無防備な体裁で――それは、正真正銘紛れもない人の仔であった。 『では、ワタクシはこれにて。詳しくは後ほど送付致しマス資料の通りに――今回も期待しておりマスよ?』  狡猾に歪んだ笑みを残して、夜の闇に影の男は溶けて消える。  雨はまだ止まない。早まることも滞ることもないモノクロの冷たい世界で、粛々と近づく夜明けを待ち侘びる少女はもう一度、小さく、雨音に雑ぜて、死の蔓延る路地裏で、懺悔した。  ――ごめんなさい。    きっとそれからの少女の日々は、復讐と贖いだけで作られていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!