河原の一団

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河原の一団

 昔から自然…特に山が好きで、社会人になった今も、休日はもっぱら山歩きをしている。  基本的には、近場の穏やかな山を選んでいるが、遅めの夏季休暇でまとまった休みが取れたので、思い切って遠出をした。  一応ハイキングコースは設定されているが、なかなかに起伏の激しい道のりで、かなり歩き応えがある。  来てよかったと、充足感を覚えながら進んで行くと、長い吊り橋のある川に行き当たった。  普段歩いている近場の山にはない、やたらと揺れる吊り橋で、これも遠出の醍醐味だと、歩みのおぼつかなさを楽しんでいる時だった。  ここからはかなり遠く感じられる河原に、十数人の人間がたむろしているのが見えた。  老若男女、万遍なく揃っているが、恰好は、みな山歩きのスタイルだ。  何家族かが合同でハイキングに来て、河原で食事でもしようとしているのだろうか。  でも、周辺を見回しても、河原に降りられそうなところがない。  橋の近くには、たいてい河原へ降りられる小路があるものなのだが、今来た側は、山からの道以外は断崖だったし、渡った側にも降りられる場所はない。  大人ばかりならいざ知らず、お年寄りや子供もいるのだ。キャンプなら、もっと足回りの便がいい所でするだろう。  俺の探し方が悪いだけで、わりと近くに降りられる道があるのかな? だったら俺も河原に降りて、川の水で顔を洗ったりとかしたい。  一度そう考えると欲求は強くなり、俺は河原の人達に声をかけた。 「すみませーん。そこに行くのって、どこから降りればいいんですか?」  呼びかけに一団が振り返る。大人も子供も、全員がじっと俺を見た。
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