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愛していると告げられた。
いつかの春、桃色の花弁が私の鼻元を掠めた。
息を吸い込むと、風はなんだか砂の味がして、見上げたお日様は攻撃的なまでに輝いていた。
「何ぼーっとしてんの」
不意に隣から声が聞こえて、はっと我に返る。
気付かないうちに下がっていた目線を上げると、木の幹に背を預けたシイが私の顔をじいっと見つめていた。
「……白昼夢でも見てた?」
すっ、と白くて華奢な彼の指が私の前髪に触れる。
その瞬間、耳や頬にかっと熱が走る。思わずひっそりと距離を取る。
「そ、そんなところ」
「……ふうん」
少し機嫌の悪そうな声色。
それでもそんなことを気にしていられないくらいに、私は動揺していて、火照った頬を夏前のぬるい風が撫でていくのを疎ましく感じた。
胸騒ぎのような、ざわざわとした心臓のあたり。
身勝手に高鳴る心臓に、少しの苛立ち。
別にどきどきしたくてしてるわけじゃないのに。
もう日常になった、古くて使われていない旧校舎での逢瀬も、慣れたようで全然そんなことない。
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