25人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「私って駄目よねぇ。お客様相手のお仕事なんだから、どんなことがあっても感情を爆発させちゃいけないのに……」
“人型(ひとがた)”を取り続けるのは、とても容易い。
というよりも、真珠にとっては、そちらが通常モードと言っても過言ではないくらいだ。
本性は雪女だが、人型を取っている間なら、ヒトに手を触れることも出来る。
健康診断で引っかからない程度の低体温も保つことも。
ホットドリンクだって、少し冷ませば飲めるのだ。
が、ある一定以上の感情に揺さぶられてしまうと、もう駄目だ。
哀しみ、恐怖、怒り。
そういう感情が爆発してしまうと、自分の意志とは関係なく、すぐに本性に立ち返ってしまう。
今のように。
「あの時、月白さんの手をあんな風に振り払ってしまったけど……。
仕方なかったの。だって動揺し過ぎてたから、たぶんヒトの体温じゃなかったはず。
あれ以上触れられてたら“妖(あやかし)”だとバレてたかもしれない。だから――」
そう、だからこそ。
どれほど月白を慕わしく想っていても、近づいてはいけない。
どれほど惹きつけられても、近づけない。
月白がここを去るその時まで、少し距離を置いて眺めているのが、自分にはふさわしい。
静かに涙を流しながら、「あと5日」と何度も呟き続ける真珠だった。
最初のコメントを投稿しよう!