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「……あの、紫葵さん? また、いらしてくださいね?
私、紫葵さんをご案内したいところが、たくさんあるんですよ?」
あぁ、この人は。本当に、もう……。
頬を染めて見上げてくる真珠の無邪気な笑顔で、月白の胸に渦巻いていたものが、一瞬で吹き飛ぶ。
紅い月の光のもと、雪原で華麗に舞っていた美しいひと。
あの妖艶な艶姿のこの人が、本当はこんなにも可愛らしい女性だったとは。
「……真珠、さん……」
真珠の白銀色の髪に、月白の長い指が深く差し込まれる。
少しだけ、触れてもいいだろうか?
こんなに長い間待ったのだから。ほんの少し、だけ。
真紅の瞳と菫色の瞳が、妖しく絡んで。
月光を受ける真珠の顔に、月白がゆっくりと影を落としていく――――
――――ガラッ!
「おぉ! 今夜はリンゴ風呂かぁ!」
「良いだろう? 青森の親戚から送られてきたんだ。まだ残ってるから、明日はテツさんのところの肉と一緒に料理するよ」
「うんうん。リンゴの肉巻きは旨いぞ。俺も食いにくるかな」
「そうしてくれ。真珠も喜ぶ」
もう! お父さんったら!
いきなり入ってきたら、びっくりするじゃない!
テツおじさんをしまい湯に誘って楽しむのはいいけど、この後の飲み会では、飲みすぎないように注意しとかなくちゃ!
いきなり乱入してきた会話の主は真珠の父と、麓にある食肉店のオーナー、綾津鉄太郎(あやつ てつたろう)だった。
何故か気の合うふたりは、たまにこんな風に露天風呂のしまい湯をともに楽しむのだ。
月白と真珠が居るのはテラスの端だが、父たちが露天風呂から少し身体を乗り出せば、すぐに見つかってしまう場所ではある。
そのことに気づかずに呑気にしている真珠を可愛らしく思うのと同時に。
寸止められた先程の続きをするべく、息をひそめながら、ふたりに早く風呂から上がってくれと願う月白なのだが――――その夢は、呆気なく破れた。
「……っ、くしゅんっ!」
真珠が、くしゃみをしたのだった。
―END―
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