歌が聞こえる

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詩織は久しぶりの会食にエスニック料理のレストランバーを選んだ。だだっ広いフロアに東南アジアをイメージした装飾。照明は暗め。落ち着いた雰囲気だが、賑わっていた。 詩織はよく食べよく飲み、よく喋った。僕もビールを飲み、タンドリーチキンなんかをつついた。 主に彼女の近況についての話を聴いた。僕のほうには話すことはほとんどない。ここしばらくオフィスに詰めっぱなしだったのだ。 彼女が口を開けて笑う。奥歯の銀の詰め物が目にとまる。 その時ようやく、歯科の診療予約を取り直していなかったことを思い出した。 「銀歯さ」 「え、なにギンバ?」 「歯の被せものだよ」 「ああ、銀歯ね」 「今は保険診療で白いのも入れれるらしいんだ。プラスチックの」 ほら、と言って歯科で入れてもらった歯を見せる。 「え、それ? ほんとだ他の歯と見分けつかないね。プラスチックなんだ」 プラスチックの歯は保険適用で一万円ほどで入れることができる。4、5年で黄ばんでくるとのことだが、以前入れた銀歯を白い歯に取り換える人も多いと、あの肥満気味の歯科医師は言っていた。 銀歯とプラスチック歯のどちらが良い、とは言わなかった。でも彼は明らかに、プラスチックの白い歯を勧めていた。第四歯はちらちらと見えますから、とも言っていた。 「わたしもそうしようかな」 「奥歯は目立たないからどちらでもいいと思うけどね」 「でもカツくんはわたしの歯を見て思い出したんじゃん」
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