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──そういえば夜中にもまた聞こえてきたの
詩織とのLINEの会話。彼女が部屋に泊まった日の翌々日。
──またって 歌?
──うん 今度はハッキリ聞こえたよ
──部屋のどこあたりから聞こえたか分かる?
──カツくん怒らない?
怒らないの意味が分からない。一度スマートフォンの画面から顔をあげる。デスクの背もたれに体を預けて伸びをする。反らされた背中に心地よい痛み。今日も定時ではない。目処はついたものの、依然として仕事は残っていた。
──怒らないってどういうこと?
──ちょっと変なこと言うから
──いいよ 何言っても怒ったりしないよ
──カツくんから聞こえたの
──僕から? 僕が歌ってたってこと??
自分でも気付かないうちに歌を口ずさんでいたのだろうか。そして寝言でも。
──違うの 歌がまた聞こえた時、わたしなんだか怖くてカツくんにひっついたの
──うん
──そしたら歌はちょっと大きく聞こえて
──うん
──よく耳を澄ましてみたら カツくんの顔のあたりから聞こえてたの
──やっぱり寝言で歌ってたんだね
──そうじゃないの カツくんの口は動いてないんだけど口のあたりから聞こえてきてるの
一体どういうことだろうか。歌っていないのに歌が聞こえる。だけど確かにあの朝の詩織の様子はおかしかった。準備を急いてるようだった。時間がおしてるからかなと思ったが、あまり僕のほうを見ないようにしていた気もする。いつもなら幾ら時間がなくても甘えてみせたりするのに。
僕の返事を待たずに、詩織のコメントがくる。
──たぶん カツくんの歯から聞こえてきてるんだと思うの
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