泡沫

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
今思い返しても浮かぶのは困ったように笑う彼の顔ばかりで、なくしてから漸く彼の笑顔を暫く見ていないことに気づいた。 決して派手ではないけれど嬉しそうに目を細めて穏やかに笑う彼が好きだった そんな彼の笑顔を独り占めしたくて、思いの丈をぶつけたあの日、彼が笑っていたのか泣いていたのかそれすら思い出せない 彼と友達以上の関係に進んでからもどことなく距離を感じてそれを無くそうと俺は必死だった。 彼を手にいれたはずなのにどうしてこんなにも不安なんだろうとずっと思っていた。 そんな彼の気を引きたくて一度だけ浮気をした。 普段は困ったように眉を下げてあまり変わらない彼の表情がその時ばかりは悲痛に歪んだ。 その表情を見たときやっと "彼も俺のことが好きなんだ" と安心できた けれど、彼はそんな俺の行動に決して口を出すことはなかった "俺のこと好きなんじゃないの?" "どうして何も責めないの!?" そんな疑問が胸のなかで渦巻くけれど直接聞く勇気はなかった 臆病だったのだ。 万が一にでも彼が俺に興味をもっていないんだと、俺のワガママに付き合っているだけなんだと言われるのではと考えてしまったから 一度きりと思っていたはずの浮気はいつの間にか日常と化し、自分のことばかり考えていた俺は彼がどんな気持ちになっているかなんて思いもせず只ひたすら自分を安心させるために彼を裏切り続けた。 だから、気づかなかったんだ 彼が日に日に元気を失っていくことに、困ったように笑うその後ろに隠された悲痛な声を… 離れてから分かったのは俺は彼に好きだという言葉を伝えることもなく浮気を繰り返していたということと、俺だけでなく彼も俺との関係に不安を感じていたということだった だから、彼は初めからいつでも離れられるようにと距離を推し測っていたのだ。 そんなことに気づきもせず俺は何をしていたのだろう。 俺が本当にするべきだった事は彼を抱き締めこの思いを伝えて彼を安心させてあげることだったのに 今更、そんなことを思っても時間は戻らない もう彼はここにいない。 俺は今日もただ一人彼の面影に想いを馳せるのだ
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!