こいつがいたら退屈も無いだろう

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「やっぱり読んだんじゃん。 まぁ、いいか…今回はエニグドさまを広めてみようと思うんだけど。」 そう瑞香は茶化したあと、身勝手に話を進めた。 「…ネタが尽きたな。」 名前の由来が適当過ぎる。 前は確か、校舎の裏庭に咲いている桜の木から落ちてくる花びらを落とさずに空中でキャッチしたのを5枚集め、お守りにすると恋が叶うとかいうやつだったか。 あんなもの、反射神経抜群の運動部限定だろ…文系の女子は何人か隠れてやったらしいが。 で、今はエニグドさま? 何かの祟りなの? 夏だから怪談が良いとはいえ…もう少し考えて欲しい。 「…で、そのエニグドさまって何なの?」 根はお人好しな実里は好きでもないエセ怪談に乗る。 「エニグドさまはね、願いを叶えてくれるの。 月光が教えてくれたの。」 とってつけたような設定が現れた。 「薔薇の花びらで作ったポプリのお守りを持って、エニグドさまおいでなさい…と呟くと本当に現れるの。」 現れてたまるか。 こんなエセ怪談のために人間に花びらをむしられる薔薇が不憫でならない。 もし、こんな理由でエニグドさまなる存在が本当に現れたら日本中の薔薇園から薔薇が消えるだろう。 「やめれ。」 園芸やってた身の上としては許すまじ冒涜に、実里は唸るような低い声で諌めた。 「薔薇のポプリはちゃんと用意しているから、今日…帰ったらやってみようよ。」 しかし、瑞香の方が上手らしくすでに事は運んでいた。 そういえば、ポプリって作るのに時間かかるんだよな。 仕込みの手間を考えると、いきなりとってつけたように話を持ちかけるのはおかしい。 (…ハメられた…。) もう、金輪際この女に植物を贈ってはならない。 実里はそう心に誓ったが贈らねば贈らないで自分で調達するんだろうな。
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