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「断定は出来ませんが。
巫女の管理および教育は、翠緑玉鏡様という五飾神筆頭の仕事です。
五飾神とは、奉領鏡明王様直轄の部下ですね。
巫女が現れたとなると彼に話を通さねばなりませんが…ちょっと厄介なことになりまして。」
実里のかかとの下のあたりを見やる戦闘員。
「何かあるの?」
実里が話を聞く。
「裏で穏便に事を運ぶ根回しというやつです…事情はお察し下さい。
なお、このことは他言無用にお願いします…この一件が漏れるとあなたといえど始末しなくてはならない。」
何かいけないことを知ってしまったらしい。
「とはいえ、いずれ話は来ると思います…ご家族とよく話されると良いでしょう。」
戦闘員は実里を押し退け、男の下の刀を抜いていく。
かなりの怪力だ。
刀を手にした戦闘員の表情が曇った。
「その刀は、大切なもの?」
察しろというが、聞かずにはいられなかった。
「大切どころか、俺たちガーディアンのすべてを守ってくれていた恩人の刀です。」
そう呟く戦闘員の言葉は、とても哀しかった。
「俺は、いつかこの刃に相応しい人間になれると思っていたのに。
けれど、自分は相手にはなれない。
だからこそどんなに夢見て努力をしたとしても、俺はこの刀が汚れていくところを見ていることしか出来なかった。
俺は…生まれた場所を守ることすら出来ないんです。」
自嘲的に語る。
「…刀が…汚れる?」
戦闘員の言葉の意味を実里は分からなかった。
「ええ、俺はこの刀と故郷と友のすべてを守りたい…だから隠すんです。
ふふ、奉領鏡明王様の巫女だからか少し喋り過ぎました…俺の味方でいるという保証なんかないのに。」
だから、あたしと会ったことも上に伏せるのか。
名前も名乗らない戦闘員はそう言って刀を大切そうに抱いて去っていった。
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