エニグドさま

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週末の土曜日、朝イチで実里は瑞香に呼び出された。 「実里、エニグドさまやるからうちに来て。」 そう言われて本当に行くと、黒カーテンを閉めきった部屋に案内された。 真っ暗で何も見えない。 「瑞香、本当に何をやるのよ? 痛っ!」 転がっている何かを踏んでしまったらしい。 何か、固い小石みたいだ。 「魔力が漏れないように黒布で結界を張ってるんだ。 結構大がかりな術式だから、周りに迷惑かかるじゃん? 真っ暗だけど、我慢して。」 もっともらしいことを口にするこの女は。 やがて、目が少し慣れてくると4畳半ぐらいの普通の部屋だったということが分かる。 もとは物置小屋の一種かもしれない。 その中心に実里を座らせ、瑞香は闇の向こうで何かの準備を始める。 「♪♪♪~♪♪」 何かの機材をいじったあと、和楽とポップスが融合したような音楽を流す。 実里の手には薔薇のポプリを握らせ、準備は整った。 それこそ何がしたいのか分からない。 実里は魔術の知識はからっきしだ…瑞香にいくつかサバト(魔女の儀式)の方法とかを聞いたような気がするが…覚えていない。 術は古今東西全国にいろんな形式があるが、今回は陰陽道…いや…そんな大それたものでもないだろう。 「エニグドさま、エニグドさま…迷うあなたに新たな器を捧げます。」 実里にはあまり見えないが、瑞香は祈るように地面にひざまづき…呪文のように呟いた。 「てか、器って何だ! そんな話聞いてないよ!」 オカルトに無知な実里にも、瑞香の言葉をまともに聞いていたらおかしいところがあることに気づく。 しかし、瑞香には全く届いていない。 よほど集中しているのか。 「エニグドさま、エニグドさま…あなたの器はここにいます。 おいで下さい、おいで下さい…私の友に祝福を。」 何か話が違う。 器とか、友達に祝福とか全く言わなかった。 カラッ…。 やがて閉めきっていたカーテンを少しだけ開ける。 太陽の光が入って目が眩しい。
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