エニグドさま

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「夢幻よ、鎮まれよ。 しばし眠りにつき…あるべき姿を取り戻せ!」 中にいる飛行物体は実里の身体を通して鎮めの光を放つ。 緑、紅、白、蒼、紫。 五色の光が、紫色の霧を薄めていく。 すぐさま光は霧をかき消し…瑞香は気を失った。 周りからも、騒ぎが全くしなくなる。 「すごい…。」 ゆっくり身体の自由が戻ると実里はその美しい光景に、素直に感動した。 ポロッ…。 実里の身体から、鏡のかけらがこぼれ落ちる。 「ち、ちょっと…!」 慌ててそれを拾う実里。 ―…チカラを…使い過ぎただけだ…休めばすぐ動けるようになる。― 小さな息づかいが聞こえた気がした。 無機物でも生命の恩人が倒れてしまうのは夢見が悪い。 「あ、ありがとう。」 実里は助けてくれた礼をする。 ―助けたわけじゃない…一時退けただけだ。 また、幻惑の霧は何度でもやってくる。― 霧を放った犯人を探せってことか。 外を見たが、怪しい人物は全く見かけない。 ―見ただけで分かるか、馬鹿女が。 もっと遠いところから放っているからな。― 悪態をつく鏡のかけら。 「聞き込むしかないってこと…か。」 催眠術をかける相手に聞き込みがどれだけ通じるか。 だが、やるしかないんだろうな…瑞香や音羽のためにも。 ―すっかりやる気だな。 表の世界に生きているわりにはいい根性だ。― 鏡のかけらは実里の何かを決意したような表情に何かを見たように見えた。 「表とか言われても困るけど…友達と妹が危険に晒されるの…あたしは許せないし。」 銃声まで聞こえていた。 もし当たったら、怪我をしてしまう。 想像したくなかった。
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