掃除屋実里

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檸檬降市の夜の(とばり)が下りた住宅街。 そこで、時々バカげた祭りが行われている。 犬同士が互いに噛みついているのだ…片方はチワワ、片方は柴犬だ。 その向こうには照明用のライトとビデオカメラ。 犬同士が戦っている光景を撮影しているらしい。 人気動画『共喰い』シリーズ。 ごく一部の人間が楽しみにしているため、あるサイトにアップされている犯罪としか思えない10分ほどの動画だ。 檸檬降市では、2年ほど前から主の奉領 鏡が巫(かんなぎ)の鍵桂 月真(じょうかつら げっしん)に砕かれ、加護らしい加護がない。 魔物が一般人の目にも止まる世界だが、レモキックガーディアンという超能力者の組織が目を光らせ少しでも隠蔽と弾圧に努めている。 しかし、すべてを取り締まれるでもなく…超能力を持たない人間は超能力者の苦労を知るも出来ない。 超能力者ってうらやましいな…一般人は戦う刺激とかねぇからな。 くすぶっているしか出来ねぇつまらない人生なんざやってられっか。 まぁ、そんな理由で彼らは日常の一般人に娯楽を提供しているわけで。 彼らは自分たちが救世主だと信じていた。 チワワと柴犬はしばらく食事を与えていない。 両者の真ん中に少しだけエサを置いて…両者を戦わせているのだ。 「ほら、もっと照明回せよ。 犬が見えねぇだろ。」 「あまり照明回すと逆光が目立つ。」 「そこ、しゃべんな…声が入るだろうが!」 小声ながらも息が合う。 こいつらの撮影はなかなかうまくいっているようだ。 効果音や音源のイメージも固めているのだろう…虚しい話ではあるのだが。
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