実里の決意

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実里はエニグドさまを連れてIMAKAMIに向かった。 「結局、うちの院長頼みになるんだよな。」 佑院長は患者といえば受け入れてくれるが、経営はよろしいとは言えない。 本来、奉領鏡が面倒を見てくれるが…今はいないのだ。 薬の材料も減っている以上、恩人にあまりワガママは言いたくなかった。 「つぐみさん、院長いませんか?」 半ばフレーズになりつつある頼みごとを持ち込む実里の声は重かった。 「実里ちゃん、佑さんは今の実里ちゃんには見えな…あら…珍しいお客様が来たわね?」 鏡のかけらのはずのエニグドさまにすぐに気づく。 気配でも読めるのだろうか? 「エニグドさまです。」 「…エニグドさま?」 エセ怪談のネタなど普通分からない。 つぐみは困ったのでとりあえず実里は鏡のかけらをつぐみに差し出した。 「とりあえず、かくかくしかじか。」 簡単に経緯を説明する。 「それは大変ね…まずは上がって?」 つぐみは、すぐに実里を奥に通す。 実里はIMAKAMIの二人の方が本当の両親より、よほど両親らしいことをしているなといつも思っていた。 不平をこぼしても仕方ないのだけど。 ーこの気配…。ー エニグドさまは何かに気づいたように浮遊しながらIMAKAMIの中を見回した。 「ここに覚えがあるの?」 実里はエニグドさまに尋ねてみた。 ーあるような気もするが、実感が無いな。 記憶が無いのだからそうなのだろうが。ー まるで他人事みたいな物言い。 しかし、今の自分のものではない自分と違う自分の記憶なら…他人の記憶と変わらないのかもしれない。 どう生きるかなんか知ったことではないのだ。
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