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「黙れゲス野郎ども。」
後ろから威嚇するような少女の声が聞こえた。
明らかに怒りが満ちている。
「え゛っ?」
撮影に夢中で気づかなかったらしい。
しかし、動きは少女の方が速い。
男子は高価な撮影機材を守ろうと必死になっている。
ドカッ!
慌てて後ろを振り向く前に男子三人のうちの一人に回し蹴りが入った。
「お前…ハカリの千鶴木実里(ちづるきみのり)?」
残り二人は蹴りの主の姿をしっかり目に焼きつけた。
金色のソバージュのヘアスタイルはさしずめお人形みたいだが…その射抜かれるような瞳と傷だらけの肌を見るや不良にしか見えない。
とはいえ、不良ほど乱れているでなく…強い意志が辺りを照らしているように見えた。
ハカリとは、檸檬降市の高校の名前だ…彼女はそこに通っている。
正式名は秤(はかり)高校なのだが。
「うるせぇよ。」
「俺たちは、人殺ししても裁かれないガーディアンよりはよほどまとも…。」
ドカッ、バキッ!
女というもののあらゆるものを捨てたかのような殺伐とした暴言を吐き捨て、実里は軽く跳んで片方の男子の腹を蹴りあげ…片方の男子にはかかと落としを食らわせた。
「ふん…どいつもこいつもバカばっかりだ。」
口癖のようにそう呟き、倦怠感を滲ませる。
実里にとって、こんな荒事はすでに慣れた。
彼女は高校の時は、普通に花とお茶を楽しむようなおしとやかな性格だった。
しかし、諸事情でアルバイトを始めてからはそんな悠長なことを言ってられなくなり。
気がつけば、「掃除屋(そうじや)」と呼ばれていた。
「…っと!」
そういえば、犬のことを忘れていた。
彼女はバイト帰りの途中、偶然現場に居合わせた。
だから、超能力者もクソもないのだが…。
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