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たとえクオーツが声を大にして上に向かって叫んだとしても――彼の立場によるだろうが――神聖騎士団という近代国家を守る仕組みは動かないだろう。良くも悪くもこの国は先進国なのだ。
昔話の悪い魔女を退治する時代は、もう終わっている。
「――いいじゃないかクオーツ。協力してやれ」
沈痛な静寂を引き裂いたのは、低い女声だった。クオーツの表情が一変し、驚いたように目が見開かれる。
闇夜を溶かしたような漆黒を身にまとった女性だ。肩で毛先を緩く巻いた髪も、アーモンド形の気だるげな双眸も、ゆったりとした黒いロングスカートも、何もかもが黒い。
世界がたったひとりだけ、色を塗り忘れたように。その女はダイニングの壁にもたれかかってそこに存在していた。
「グルニエさん。起きてたんですか」
「キャシーに叩き起こされてな」
サリュの件があったからだろう。キャシーが来るのが遅かったのは、グルニエを始めとする屋敷の人間に事情を説明でもしていたんだろうか。
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