拉致されちゃった

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 窓からそっと中を伺うと、薄暗い裸電球に照らされて幾つものゲージが積まれているのが見えた。それらの中にうずくまる様にして動物達の影が見えた。 「危ない人達は不在の様です。」 「うん、確かに人の気配はしないね。」  静まり帰った倉庫の中に幾つものゲージの山。その中に絶望した猫や犬達がグッタリと踞っていた。 「このまま救出致しますか?」  一刻も早くマリを助けたい僕は、二つ返事で答えた。 「やろう。」  空には、糸の様に細い月がかかっているだけの暗い夜だった。  倉庫の裏に回るとトタンの壁が一部捲れている箇所があった。僕らはそこから注意深く侵入した。幾つもの空のカーゴの山を越えて動物たちがいる場所を目指した。  幾つかの山を越えた所で迂濶にも僕はカーゴの中に転落してしまった。カーゴの高さは約五メートル。壁は鉄板で登る手がかりもない。腰を強く打った僕は暫く呼吸もできず仰向けで倒れていた。 「カツミさん、大丈夫でしょうか。」  ショーンの声が聞こえてくるが、返事ができなかった。 「カツミさん、意識があったら片手を挙げてみてください。」  僕はかろうじて右手を僅かに挙げて、手首で合図をした。 「これは、実に困ったことになりました。」  ショーンの困惑した声が聞こえてきた。  確かに、困ったことになった。  あれから、一時間程経っただろうか。痛みが和らぐにつれて漸く体を動かせるようになった僕はゆっくりと腹ばいになった。そして自分の体のパーツ一つ一つに力を込めながらその状態を確認した。どうやら骨折はしていないようだ。腰の痛みも薄らいできた。 「ショーン、そこにいるかな。」 「はい、カツミさん、気づかれましたか。よかったです。」 「ここから出るにはどうしたらいいかな。自力では無理みたいだ。」 とその時、倉庫の重い扉が開く音がして、何台かの大型バイクの排気音が聞こえてきた。 『まずいことになったな。』   タイミングの悪さに、胃がキリキリと痛み出した。
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