第1章

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あの時家に無くなっていたのは俺の使っていた家具や私物ではない。俺の“存在していた証”が無くなっていたのだ。翌日の夢は最後通帳。俺の中にあった“存在の最後の一欠片”が無くなってしまった証左。そして俺はもうこの世の誰にも認知されない完全な透明な存在となってしまったのだ。もしかしたら家族ならば気付いてくれたかもしれないが、その家族はもういない。少し前に“ゴミ”として処分してしまった。 訳も分からず俺は走っていた。運動も満足にやっていなかった身体で、大声を張り上げて。喉も胸も張り裂けよとばかりに叫び散らした。 誰か俺に話し掛けてくれ! 誰か俺の手を取ってくれ!! 誰か俺を見てくれ!!! 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 道行く人の波は避けもせずに俺の周りをすり抜けていく。俺の叫びに答える物は誰もいない。最早俺は“人間”ではなく、これでは“幽霊”のようになってしまったようだ。 誰も俺を見てくれない。誰も俺の声を聴いてくれない。 ……俺なんて“いない” 「寂しいよ……誰か俺を見てくれよ……」 世界に存在を拒絶された男(とうめいにんげん)は、最後にポツリをそう呟き、その見えない身体を引き摺って、何処か自身の終らせる場所へと歩いて行った。
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