第1章

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もしも透明人間になれたなら。 世の男子諸君ならこれは至上の命題の一つだろう。 誰も自分を認識できない完璧なステルス。 女子トイレや更衣室に誰に咎められる事も無く侵入し、気に入らない相手を一方的に傷つける事も出来、映画も交通機関も当然タダ見タダ乗り。 その最高にして夢の様な力を俺は授かった。 別に経緯のような物は何という事でもない。「朝起きたら…」と言う奴だ。 鏡に映らない自分を見てその特性に気付く事が出来た。最初こそは驚き半信半疑だったが、家賃を取り立てに来た大家の目の前に立っても無反応だった事で得心し、前々から気に入らなかった隣に住む中年を蹴飛ばして確信した。 「俺は透明人間になったのだ」と。 三十手前の無職、家族にも早々に見限られ、アルバイトで職を転々として生きていた俺に授けられた人生の救済パッチ。そうとさえ思えた。 早速行動を開始しよう。 今日から俺は透明人間。 数多の存在が渇望してやまない最高の力を授かった男だ。
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