第1章

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鏡に姿が映るようになってから少しばかり行動を自重したが、再び鏡に姿が映らなくなったので再び行動を開始する。 そう言えば昨日は変な夢を見た。 自分の中から沢山の色が抜けていく夢。抜けていった色は俺の姿を形どり、酷く寂しそうな顔でどこかへ消えていった。もうあのような不具合は起こらない。今度こそ実家に火を付けてゴミ共をこの世から葬り去った。いい気味だ。生まれて初めて正しい事をやったと胸を張って言える。 当然その事はニュースになった。家が焼けたのだ。当然だろう“一家全員焼け死んだ”とは…まあ、全員帰宅してから火を放ったんだから当然だろう。 ………待てよ、一家全員?ちょっと待ってくれ。俺は此処にいる。一家全員と言うのは少し語弊がある。しかしTVの向こうのキャスターは“既に家を出ていた息子”の事は何一つ言わなかった。 あれから幾つか犯罪行為をおかしてみたが、一向にニュースになる気配はない。“何か知らない奴の所為にされ”、“そいつが犯人となってTVがそれを映す”と言う事が続いていた。ならばと思い公共交通機関で女性の身体を弄ってみたが俺の近くにいた奴がしょっ引かれていった。触れば流石に感触が残る筈だがそれすら何もないかのように女性は俺の近くにいた奴の手を掴んでいった。 その最中、天啓と言うべきか、恐ろしい結論が頭の中をよぎっていった。 俺は透明人間になったのではなく、“世界に存在を否定されそうになっているんじゃないか”と言う事に。
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