1章 ~少年よ、殺意を抱け!~

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 むせ返るような、甘ったるい花の匂いが体育館中に充満している。  花の鉢が、ステージ上にぎっしり敷き詰めてあった。  後ろには、礼服を装った大人達がカメラを構えながら手を振ったりしている。  ときどき光るフラッシュに少しばかり苛立った。  壁一面は、めでたい赤と白で埋め尽くされ、白い電光が体育館中を照らしている。  見慣れない顔が周りにたくさんいて少し緊張するものの、見慣れた顔がすぐ横にいるので安心した。    俺はガタガタ揺れるパイプ椅子をキィキィ揺らしながら校長の話を適当に聞いていた。 「皆さん、入学おめでとうございます。我が校の…………」  口には出さないが、さっきから入学おめでとうだの、ありきたりな話ばかりで退屈し、危うく眠るところだった。  同じような顔のおじさんが同じように演説し、同じように去っていく、の繰り返しである。  隣にいる女神は、もう既に俯いて寝ている。 「んんぅ~」  女神はむにゃむにゃ何か口の中でつぶやき、無意識に俺の肩に寄りかかってきた。  茶色の髪が俺の肩にかかり、頬の柔らかい感触が服越しに伝わってくる。  シャンプーか何かの心地よい香りが鼻腔をくすぐ……ってそうじゃない。 「おっ、おい!起きろって!」  俺は慌てて女神を引き剥がし、パイプ椅子の背もたれに彼女を戻す。 「あいつ彼女持ちかよ!?」 「入学早々、あんな可愛い子とイチャコラしやがって……!」 「やっぱイケメンは勝ち組かよ……けっ!」 「リア充しね、爆発しろ」  なぜか周囲の視線が次々と俺に突き刺さっている……ような気が。   特に男子からの視線が痛いのは気のせいだろうか……?
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