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「彼女がしつこいんだ。別れたくないって。嫁にバレそうなのに……」
最悪だ、この世の終わりだよと呟きながら、男は頭を抱えた。茶髪を眉の位置で切りそろえたおかっぱのような髪型と、線の細い体型から女っぽいイメージを受ける。だが結婚している上に愛人までいるのだから、これでなかなかの肉食系なのだろう。
「何とかしてもらえないかな」
ぼそりと言った男の言葉に即答する。
「じゃあ、手っ取り早く殺そうか?」
「とんでもない」と彼はぶるぶると首を振った。
「なにもそこまでしなくてもいいよ」
「じゃあ、愛人さんに罪をかぶってもらうってのはどうだ?ちょうど今、別件で殺しの依頼が入っているんだ」
「殺し?」と男は不安げな目で俺を見た。
「ああ。あんたの彼女を、その犯人に仕立てあげてやろう。そうすりゃ刑務所行きだ」
「なるほど。それなら確実に別れられるな」
独り言のような彼の言葉に「その通り」と応えてやる。
「いくらしつこくたって、もう会わなくて済むようになるぞ」
「そりゃいい。清々するぜ」
解決の糸口が見つかったことで、男が安堵の笑みを漏らしているうちに、話を先に進める。
「じゃあ、代金をいただこうか」
「先払いなのか?」
「今回は特別だ。あんたには踏み倒されそうな気がしてね」
「そんなわけない」
納得できないようだが、俺が無言で右手を差し出すと、彼はバッグからしぶしぶ帯封のついた札束を取り出した。
それを受け取り、ぱらぱらとめくる。何度嗅いでもいい匂いだ。
「オーケー。一週間以内に片付ける」
「頼むよ」と短く言って、男は出て行った。
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