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「練習しましょう」
エリカは目の前にあった大理石に腰掛けた。
「脱がせていただけます?」
床入りの儀式で自分から服を脱ぐというのは介添人に恥をかかせる事になる。高貴なる王に出来ぬ事などあってはならないのだ。
「この紐を引くのか?」
壁に掛けられた松明とは言え明かるさは十分な筈である。
「はい、そうすれば前がはだけますから・・・えっと、王?」
「う・・む、難しいの、触れぬように脱がせるというのは」
「あーいいですいいです。がっちり触っちゃって下さい。胸でも背中でも」
かえって意識した触り方をされたほうがくすぐったい。
「それで、先程いただいた領地なのですけれど」
実際くすぐったくて仕方のないエリカは違う話題で気を紛らわせようと試みた。
「オットー伯爵領はかなり広いのでしょう」
「辺境伯ほどではないがな。まあ、しっかり管理を頼むぞ」
「どういう手を使われたのか、聞いてもいいですか?」
「おっと、これはどうすればいいのだ?」
躱された、と思ったが重ねて聞くほど愚かではない。
「私が腰を浮かせますから・・・はい、そうです」
王は手にしたシュミーズを自分の左側にある台の上に置いた。
「出来た」
「上出来です」
肌着を着るために立とうとすると、王はエリカの肩に手を置いてその場に留め
「少しこのまま眺めていてもよいか?」
王の視線はエリカの胸や腰のあたりを彷徨っている。
「? どうぞ」
王に肌を見られること自体は何とも思わなかったので、大理石にゆったりと座り直した。
きっとまた自分を通して母のことを思い出しているんだろうな、とエリカは思った。
「試合場のすぐ横にあった大きな屋敷を覚えているか?」
「あ、はい、こちら側に青い壺がいくつも並べてありましたよね」
「あそこはオットー伯が公館として使っておった屋敷でな、内装を整えて明け渡すよう言いつけておいたから接収して使うが良い」
「ありがとうございます」
「礼には及ばぬ、王都に寄った際には逗留せよ、余の方から会いに行く」
「それは、娘としてでよろしいのですか?」
聞きようによっては妾になれと言っているように聞こえなくもないので、エリカは一応確認をした。
「もちろん」
「はい、必ずお知らせいたしますわ」
エリカはそう言うと立ち上がり、シュミーズを着た。
肌が足首のところまで隠れてしまったため、王は少し残念そうな素振りを見せた。
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