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 神殿から出ると、王の儀式の間がある建物に続く沿道にはぎっしりと人が詰め掛け、蝋燭の灯りによって光の線が出来ているかのように見えた。  介添人の三歩後方を進むようにと説明を受けてはいたが、何となく王の背中に寂しさを感じ、王の左側に進み出た。 剣を使う右手側を避けたのである。  エリカは王の脇に右手を差し込んで、左腕の肘部分に内側から手を添えた。 さすがにこれは叱られるかなと思ったが、叱られるどころか喜んでいるように見えたので、そのまま並んでゆっくりと歩くことにした。  歩きながら蝋燭の火点に向け微笑みを向けていたエリカは、どうも見覚えのある顔ばかりが沿道に並んでいるのに気が付いた。 それもその筈、沿道の最前列にいたのは高価な蝋燭目当てに参加している市民などではなく、エリカが連れてきた兵士達で、酒場に繰り出すだけの給金は得ていたが、皆「おらが殿下」の晴れ姿を見ようと集まって来ているのであった。  王の儀式の間に到着するとすぐに扉が開かれ、王と腕を組んだまま赤い絨毯を儀礼用ベッドの位置へ進んだ。  王が花嫁側の介添えになるのも異例であるが、それ以上に王と腕を組んで入場するというのは常識を遙かに超えてしまっていたため、立ち並んだ貴族達は呆気にとられたような顔をしていた。  エリカの頭上には銀のシャンデリアが輝き、まるで昼間のように明るく感じる。 ベッドからは薔薇の香りが強く漂ってきた。  エリカはベッドのフットシートに腰を掛け、自分に視線を向けている貴族達を見た。 そのにやけた表情から、早く胸があらわになるのを待ち望んでいるというのがあからさまに分かり、何とも不快な感じを受けた。 「王?」  いきなり王はエリカの正面に覆い被さるように立って服を脱がせ始めた。 視線を遮られた貴族達は不満であろう。しかし国王相手に不満を鳴らすわけにもいくまい。  エリカは黙々と目の前で脱衣させることに集中している王に、本当にこの人は私の父なんだなぁという実感と安らぎを感じていた。  随行の神官達はまるで王と打ち合わせでもしていたかのように、エリカがベッドに横たわった瞬間、まだ王が作業には邪魔な位置にいるのにも係わらずシーツを身体に掛け、花弁を散らし始めた。王は周囲を動き回る神官の身体が触れても気にする様子もなかった。  こうして会場にいる殆どの貴族はエリカの裸を楽しむ機会を逃すことになった。
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