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「エリカ様?」
声を掛けられて立ち止まると、松明を持った女官は2人を庇うように声のした方向に回りこんだ。
暗がりから人影が2つ現れた。
「あ、やっぱりエリカ様だ。歩き方がそうかなって思ったんです」
「あら、トーマスとヨランダ?」
「はい、あ、お一人ではなかったんですね」
「夫と館に入るところなの」
「あ、お急ぎのところを呼び止めてしまって・・・」
「いいのよ」
「あ、えっと」
エリカのすぐ後ろにいたレオナルドがエリカの肩に手を置いて
「この2人は旅猫?」
「トーマスは人間だけど・・・レオン、あなた見えるの?」
「魔力を持っている者はなんとなくね」
「旅猫は女性の方よ、ヨランダというの。それでトーマス、私にご用かしら?」
「はい、雇っていただけないかと」
「え? あなたハロルドのところの人じゃなかった?」
「ここまでの護衛で雇われただけなので」
「それで今まで私を待っていたの?」
「仲間は皆酒場へ繰り出したのですが、何となくエリカ様に会えるような気がして、家にも帰らずにいたのです」
「あなたは薬草を使えたのよね」
「はい」
「そういう人がいつも近くにいるといいなとは思っていたの。いいわ、ヨランダ込みで雇います。付いて来て」
公館手前の広場に着いたエリカは、館内の様子がおかしいのにすぐに気が付いた。
「ヨランダ、何か感じますか?」
「ここからは何も」
夜間なので一応魔の領域を警戒したのだが、ヨランダが緊張をしている様子もないので安心することにした。
「殿下」
屋敷内に先触れに行っていた女官が戻ってきた。
「中で騒ぎが起こっています。取り次ぐどころではありませんでした」
「ここからでも何となく分かるわ」
「お入りになりますか?」
「もちろん、あ、あなたは戻っていいわよ」
「あの・・・」
「ん?」
「殿下が・・・もしよろしければ私もお側に置いていただけないでしょうか」
トーマスに影響されたな、とエリカは思った。
「それは構わないけど、私といるより陛下に仕えていた方が待遇は良くてよ」
「殿下のお世話をしたいのです・・・」
「わかった、わかった、明日にでも陛下にあなたを譲っていただけるようお願いします」
「ありがとうございます。では行きましょう」
女官は俄に元気になり
「マーヤとお呼び下さい、殿下」
「では私のこともエリカって呼んでね、マーヤ」
「はい、エリカ様」
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