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エリザベスは自分の体温がみるみる上昇するのを感じた。一人前の姫として扱われた喜びと、ハロルドへの想いが交錯した。
「はい、必ず・・・」
エリザベスも続く言葉を探したが、なかなか見つからない。ハロルドはエリザベスを見つめたまま言葉を待った。
「・・・どうか、ご無事で・・・ご武運を祈ります」
試合とは言え、使うのは本物の武器である。
毎回何人もの死傷者が出ている現状からすれば、決して大げさな言葉ではない。
ハロルドは剣を抜くと刃を自らの頬へ近付け、そしてすぐに鞘へと収めた。
エリザベスは剣の礼を受け、駆け寄りたい衝動を抑え、その場でにっこりと微笑んだ。
ハロルドが身を翻して部屋を出ると、レオナルドや部屋にいた従者達が息を吐いた。
「殿下の刺突を躱せる者などおりません、ご安心下さい」
案内の従者がエリザベスを安心させるように言った。
紋章官が声高らかに、本日の試合は全員が一戦ずつ行う(つまり勝ち抜きでも総当たりでもない)と説明をした後、最初に試合う騎士の名を読み上げた。
「おーい、ケビンこっちこっち」
試合場に最も近い外壁に作られた物見台の階段の踊り場は試合場全体が見渡せ、来賓の顔もはっきり拝めることから特等席であるのは間違いなかった。ケビンには衛兵に話を付けた、ということにしているがヨランダが結界を張って見えなくしているだけである。
「ほいよ、トーマス」
ケビンはトーマスにシナモンの香りがする葡萄酒が入った木製のコップを手渡した。
「樽運んでた酒場の姉ちゃん、このへんいい肉付きしてたぜ、まとまった金も入ったことだし、あとで行かないか?」
ケビンはそう言って腰を振ってみせる。
「いや、エリカ様からあとで来るように仰せ付かっているので遠慮しておくよ」
「王女様から? なんだぁ? まだ仕事あるのか?」
もちろんこれは睨んでいるヨランダを宥めるためにケビンを黙らせようとした嘘である。
「それよりほら、最初の人が」
「何だか危なっかしいの」
視線を会場に移したヨランダは、従者から受け取った槍でよろめいたとしか思えない騎士を見て呆れたように言った。
「あれでも騎士なのか?」
「第1王子だよ、あれは」
「分かってるよ、トーマス。誰に言ってるんだ?」
ケビンに指摘されて、ヨランダが「見える」者にしか声が届かないことを思い出した。
「あーつまり、相手は誰かなーっと」
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