1、

5/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
どんっ!  鈍い音と共に銀の騎士の脚は鐙から外れ、後方に吹き飛んだ。 鐙から綺麗に外れたことはこの場合幸いであっただろう。 馬にもみくちゃにされることもなく銀の騎士は地面に後頭部から落ちて仰向けに倒れた。  ハロルドは馬を止めて銀の騎士を見たが、ぴくりとも動かなかった。  ハロルドは馬上で槍を掲げた。観客は歓声を上げた。 紋章官が長々と勝利を称えようとした刹那、大声で 「この勝利をエリザベス姫に捧げる」と宣言した。  従者は宣言を聞いてあわてて飛び出してきて、ハロルドから馬と槍を預かった。 (エリザベス姫とは何者か?)  貴賓席にいるエリザベスは視線が自分に集まるのを感じ、自然と席から立ち上がり、ハロルドの到着を待つ形になった。  落馬した騎士の従者が駆け寄って戸板での収容が始まったが、観客の興味ははハロルドとエリザベスに集まっていた。  騎士のロマンスが目の前で展開しているのである。 これほどの娯楽を見せられて、試合の中断に文句を付ける者など居ない。ただ、エリザベスを見て騎士の思い人にしては幼すぎる、子供ではないかと思った者は多かったが、口に出すと騎士を侮辱することになるため、黙って成り行きを見守っている。  ハロルドはゆっくりと貴賓席の階段を上ると、エリザベスの三歩ほど手前で片膝をついた。 騎士として自らの剣を姫に差し出すのだろうか、誰もがそう思った時、エリザベスがハロルドに歩み寄った。 「勝利の祝福を」 エリザベスは少しも躊躇う素振りを見せず、ハロルドに口付けをした。 会場がどよめいた。姫が騎士にいきなり口付けをするなどと言う話は聞いたことがない。  エリザベスが唇を離すと、今度は立ち上がったハロルドがエリザベスに羞恥心を思い起こす暇も与えず抱き寄せて口付けをした。  ドレス姿で上向きに抱き寄せられた姿勢はかなり苦しいものであったが、衆目の中でハロルドの背を丸くさせてはならない、とエリザベスは背伸び状態でハロルドにしがみついていた。  その長い、情熱的に見える口付けは、二人が恋人同士であると観客全員に納得させるのに十分であった。 「続きは部屋でやれ」  王のこの言葉は歓迎を受けた。  甘いロマンスを見た次は、刺激が欲しくなるものである。 ちょうど倒れた銀の騎士の収容が終わり、試合続行が可能となった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加