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高樹のぶ子「水脈」|(文春文庫)(233ページ)文藝春秋(1998/05)
文學界一九九三年五月号より九四年十一月号まで隔月連載|(九四年七月は休載)。
「節穴」は書き下ろし。
単行本は一九九五年五月、文藝春秋社刊。
「浮揚」では、小説家のわたしが知り合いの植物学者からある水媒花の空恐ろしい求愛を聞かされ、静かに苛立つ。
導入篇。
「裏側」では、祖母が好きだった山水画家の描いた滝の裏で、わたしが現実と夢幻を行き来する。
ファンタジー導入篇。
「傷口」では、魚市場の中で惑ったわたしが白から滲み出る赤に混乱する。
「消失」では、引き換えに何かが毀れてしまっても人を救う/運命を変えることが出来るのだと悟ったわたしが、億の数の蝉の幼虫が笛の音に急かされ一斉に土の中にあいた深い穴から飛び出す光景を幻視する。
ほとんどSF。
「月夜」では、海外のリゾート地で古代文明の呪いか水あたりしたわたしが、トイレで過去の流産の記憶を呼び戻す。
このお話だけ、作者にしては纏まりが悪いが、他の話でも出てくる祖父と月のエピソードが実は好き。
「還流」では、透析患者の学校の後輩にわたしが自然の透析装置付き浮島をプレゼントする。
ああ、吃驚した。
こんなものを既に書かれていたら、こちらが書く話がなくなってしまう……というか、倣えば良いのか!
作中にもあるが、根から海水を吸い上げ体内で塩分を濾過して葉から捨てるヒルギダマシ|(蛭木騙し)はキツネノマゴ科ヒルギダマシ属の常緑木本で分類によってはクマツヅラ科や独立科であるヒルギダマシ科に含められることもあるらしい。
潮間帯に生育するマングローブ樹種のひとつでヒルギという名がついているがヒルギ科・ヒルギモドキ|(シクンシ科)などの植物とは別の系統に属するようだ。
「海霧」では、水族館でわたしが魚に変った昔の友に出会い、連れ立った編集者が幼くして亡くした息子を垣間見る。
「節穴」では、離島の民宿でわたしが節穴から誰かに覗かれ、また逆に覗く。
このお話だけ全体から見て少しだけ浮いているのは書き下ろしだからか。
「青池」では、青池の底でわたしが死んだ息子の彫った木像に自分自身を掠め取られる。
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