0人が本棚に入れています
本棚に追加
私はA市に就職のため引っ越してきた。
本当はもっと都会的な都市に住みたかったのだが昨今の不況のあおりをくらって、就職先が中々見つからなかった。そこで、A市では市長が学校教育の充実のため教員を大量募集するという情報をつかみ、応募したところめでたく採用、市立A中学校へ赴任となったわけだ。
A市に来てみると古い歴史をもつわけでなく、大工業地帯を持つわけではなく、これと言った特徴がないのになぜか整然としたたたずまいを感じ。なにか秩序だった風格を感じさせる。最初は気が進まなかったが住めば都で次第に気に入ってくるかなと前向きな気持ちになってきた。
さっそく、市役所に転居の届を出しに行った。A市はたしか人口10万ちょっとだったがずいぶんと立派な建物だった。30階はあると思われるビルとそれをぐるりと要塞のような壁が役所を取り巻いた。
「へー、立派な建物だなあ」
私はさっそく、市役所の入口を探した。
そこで私は不思議な事態に遭遇した。入口がないのだ。どこにもない。
しかたがないので巨大な要塞の壁伝いにくまなく探した。
そして、ほぼ1周しようかというときに守衛所らしき箱型の建物がみつかった。
「やれやれ、やっと見つかった。」
しかし、守衛所の近くには入口らしきものがなかった。こんなことってあるのか。
「あのー、すみません。」
「はいはい、なんでしょう」
中からはしわくちゃの顔をした人の好さそうなおじいさんがでてきた、Tシャツにジーパンというラフな格好だが。職員証らしきバッジを胸にしているので市の人だろう。
「ここは市役所の守衛所ですよね」
「はい、そうですよ」
「お恥ずかしながらお伺いしたいのですが、入口はどこでしょう?」
「さあ、私も知らないんですよ」
私は一瞬言葉を失った。こんなことってあるのだろうか。
「ここは守衛所ですよね。なぜ入口がわからないのですか?」
「そうです、ここは守衛所ですが、守衛所の人間が入口を知らなければならない法律はないでしょう。」
それはそうだがだったらどうやって役所の中に入るのだろうか?
「申し訳ありません。私も意地悪をしているわけではないんですよ、市の高齢者雇用対策の一環で雇用されたんです。守衛所に勤務すれば年金と合わせて生活できるということでここに一日いるのです。第一、入口がなければ不法侵入者もでないのでトラブルも起きません。
最初のコメントを投稿しよう!