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プロローグ ~再会
僕は彼女に何をしてあげられたのだろう。
今、僕の中にあるのは後悔と喪失感だけだ。
最愛の、いや僕が想っていた人の、そして最後に僕にへ想いを告げた彼女の葬儀から逃げるように帰って来たあの日から1週間、今日僕は思い出の岬で佇んでいた。
彼女に渡すはずだったネックレスを握りしめて。
それを彼女の棺に入れるとか、彼女の墓標に奉ることもできるだろう。
それでも僕はそれを拒んだ。
その行いが「僕の中の彼女」を殺すのではないかと怯えたからだ。
自分でも解ってはいる。
僕が持っているのでは意味がないということも。
これは形見ですらない、ただのネックレス。
それでも、これを持っていればいつか彼女に逢えたときに渡せるような気がしていた。
そう思っていたかった。
そう思わなければ、この後悔と喪失感に耐えることなんてできなかった。
後悔と喪失感に耐え続けた1週間。
ようやく僕は気づいた。
この僕の行いが、何よりも僕を苦しめているということに。
だから僕は今、彼女との唯一の思い出の場所へこれを棄てにきた。
思い出の岬にこれを置いて去る。
ただそれだけでいい、それができればいいと思っていた。
そして僕は決心する 。
岬から海へとこの想いと共にこれを沈める。
そう思ったそのときだった。
「それ 、捨てちゃうの?」
よく知っている声で
「もったいないなぁ」
もう見ることのできないはずのその姿で
「それ、すーっごくキレイなのに」
もう逢えないと思っていたのに
『……夏澄(かずみ)?』
「やあ、和くん。久しぶりだね。」
そして僕の決心は揺らぐ。
気が付くと僕は彼女へと歩みを進めていた。
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