第1話

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「じゃあ、とりあえずカードの受け渡しからやってみようか、俺隣で見てるから。」 「はい!よろしくお願いします!」 こちらを真っ直ぐ見るまん丸に見開いた目、力が入って上がりぎみの肩。 大した仕事じゃないのに、そんな気合い入れちゃって。初々しいってこういう事言うんだろうな。 ってかこんな緊張してて、普通に接客とかできるのかよ。 俺は彼女の右側に立った。 内心不安に思いながら、客に挨拶をする。 「こんにちは!」 彼女も続けて挨拶をする。 俺は驚いた。 彼女の横顔はそれまでのこわばったものとは全く違った。 柔らかい笑顔で、しっかり声も出ている。 「新人さん?可愛いねー。」 と、いつもトレーニングに来る、地域の老人男性に声をかけられる。 「はい、本日からこちらで働きます。 よろしくお願いしますね。」 へへへ、と照れ笑いしながら、にこやかに話す。 さっきまでと別人じゃん! なにそれ。 「ありがとうございます。カードはこちらですか?」 「こんにちは!」 彼女の明るい声が事務所に響く。 ふーん。まぁ、とりあえず仕事は出来そうだね。 「じゃ、少し任せるわ。なんかあったら言って。」 そう告げて俺は自分の仕事に戻ろうとした。 「えっ?!いきなりですか!! 無理です無理です!」 とまた、まん丸い目で、肩を上げて必死に訴える。 さっきまで余裕綽々だったのに、そのギャップがおかしくて、ついつい笑ってしまう。 「いやいや、大丈夫でしょ!」 と、言って自分のデスクに戻る。 彼女は 「…はい。」 と少し不満そうな、不安そうな返事をして受付業務に戻る。
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