紹介

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トレーニングジムの受付に配属されたて、 緊張するわたしの反応が面白いのか、 彼はやたらと近くに寄ってきた。 パソコンの指導は、後ろからわたしの身体を囲うようにしてやってきたし、 逃げ場の無い壁際に追い込まれたこともある。 トレーニングカードの受け渡しの際には行ってらっしゃいませ、の一言を言うのだが、 なんだかメイドカフェみたいである。 わたしは恥ずかしくて言えなかった。 するとそれに気づいた彼は後ろからやってきて、 耳元で 「行ってらっしゃいませって言って」 と、低い声でささやき、言うまでその場所を離れない。 仕方なしに、うつむきながら小声でそのフレーズを言ったのを覚えている。 なんのプレイだよ! と、思わず突っ込みたくもなる。 まぁ、仕事なのだから当たり前か。 わたしの自意識過剰かもしれない。  人間にはパーソナルスペースなるものがあるらしい。 初対面で45センチ以内に入れれば、その相手とはまず間違いなく親しくなれると聞く。  彼は狡猾だ。 わたしはまんまと彼を意識し始めたのだった。
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