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それでも、
わかっていても、逃げられない。
既婚男性の罠など、今まではうまくかわしてきた。
そんなことされたら、気持ち悪いとすら思っていた。
だけど、今回はかわせない。
逃げられないのだ。
いつも、ふっと気がつくと魔法にかけられていて、
慌てて男っぽい自分を演じる。
会わないまま時間が過ぎてしまえば、と思うのだが、同じ職場なのだから、仕方がない。
しかも少し距離をおいて、冷めてきたころ、またぐいぐい近づいてくるのだから、たちが悪い。
必死で、彼の家庭のことを考える。
彼の子どものことを考える。
自分の両親のことを考える。
夢中にならないように。
向こうにとっては単なる恋愛ごっこなのだから。
いくらキスがしたくとも、身体に触れたくとも、ぬくもりがほしくとも
わたしには、できない。
しかし、彼は違う。
彼には立派な奥様がいる。
彼はキスがしたいときはキスができるし、ぬくもりもすぐに手に入る。
あぁ。
ずるい。
キスがしたい。
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