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彼とシフトが同じ時は、
まず、前日にはセルフトリートメント。
出掛ける前にはお化粧もしっかりして、
髪の毛を甘い香りのオイルで整える。
たぶんだけど、
彼はこの甘い香りが好き。
そしてドキドキしながら、職場の扉をノックする。
それからわたしは、少し素っ気ない態度をとる。
だって、わたしだって妻子ある人と恋したいわけじゃない。きちんと仕事をしたいし、仕事で認められたい。
いつだって自分にはそんな気はないんだって思いたい。
向こうにもそんな気なければ、こんな感じでいれば自然と冷めるはずだし。
そう思う反面、彼に近くに来てほしくて、こんな甘い香りをさせてる。
そんな矛盾した気持ちで、視界に入り込んでくる彼を、無視する。
すると彼は半ば強引に、受付の物に手を伸ばしたり、受付のパソコンをいじったり、すぐそばでひとりごとを言ったりする。
二、三度は、気づかないふりをする。それでも、わたしが声をかけたり、目を合わせるまで、うろうろとしているのだ。
そんな姿がなんだかたまらなく可愛い。
大抵彼は職員が全員帰るまで、事務所にいる。
夜間の勤務を担当するわたしと必然的に、二人きりだ。
彼がどういうつもりで残っているのかはわからない。
二人きりになるためにいるのか?
家に帰りづらいのか?
出世のためか?
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