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顔を見たとたん、うわ、ってなってお互い目をそらした。なんでまたこの広い東京の初めて入ったバーでこの顔を見ないといけないのだ。
「お前、本当に最悪」
言うと、ケンゾウも「それな」と言って、ゲーって表情。それでも上着を脱いで一個離れたスツールに座った。
「お友達ですかー」
さっき言葉をかわしたばかりのバーテンが興味深々といった様子で、交互に俺らを見た。
「何、ここよく来んの」
ケンゾウは俺も尋ねたかったことを口にした。
「いや」
「俺は二回目。あ、ビール。普通の」
「音かえます?」
バーテンが尋ねる。
「なんか重たいの。インスト、なければさらっとしたやつでもいいから歌はいってないの」
同じこと考えてた。さっきからずっと日本語の歌詞うるせえいらねえと思っていたのだ。
「柿塚、携帯震えてるよ」
「知ってる」
ぬっと腕がのびる。そして誰が発信元か確認してから手放す。ムカつく。
「結婚おめでとうございます」
俺はにっこり笑顔で寿いだ。こいつの伴侶となった元部下からは聞いていたけど、いつまでたってもこいつ自身の口から報告がない。
「ご結婚されたんすか、おめでとうございます」
バーテンが頭を下げる。ケンゾウはどーも、とか適当に流している。
そうこうしているうちにどやどやと団体さんがやってきて狭いバーはいっぱいになった。馴染みのない場所で初めて会った方々と、なんやかんやで飲む。
「俺帰るけど、あんたどうすんの」
気分よく酔っぱらっていると急にケンゾウが俺のところまで来て言った。何が「あんた」だよ。
俺が無言で微笑むと、ケンゾウはため息をついて「大人なんだから」と言った。
その言い方が気に入らなくて、「だったら俺と結婚して」と言ってみた。
周囲がゲラゲラ笑っている。「結婚したいのかよ!」と誰かが叫んだ。
ケンゾウは、眉間に深いシワをよせて「てめ冗談でもそういうこと言うな。誰かに聞かれたらどうすんだ、俺殺されたくないからね」と言って、さっさと俺を置いて帰ってしまった。
一人ぼっちじゃないか。ひどい。信じられない。
俺は、周囲を見回す。
さっきからやたら絡んでくる若い男が一人。あだっぽいおネーさんが一人。
合格合格。どっちも悪くない。
さっきから俺は、誰か俺の知らない、俺のことを好きじゃない奴とヤりたい気分なんだ。
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