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胸の噛み跡も確認し、指でなぞる。
いつ噛まれたのか、腰骨のところに血がにじんでいた。
「あいつは…限度ってものを知らないのか。」
本当はわかっている。
もっと、もっとと、俺があいつを欲しがったからだ。
次に肌を晒した時にまだこの傷跡が残っていたら、きっとリンデンは癒すように優しく舐めてくれるだろう。
けれど、交わり始めればまた同じように歯を食い込ませるに違いない。
テーブルに用意してあったプレゼント用のグラスの包装を解いた。
……リンデンの家に持って行く必要はない。
あの家にはいいグラスがたくさんある。
リンデンにプレゼントをすれば大切にはしてくれるだろうが、使われることなくただの飾りになってしまう可能性が高い。
けれど、この家に新しい揃いのグラスがあれば、何を言わずともリンデンのために用意したものだと察してくれるはずだ。
グラスにチュッとキスを一つ落とした。
けれど、額に汗を浮かべ俺を見下ろすリンデンの顔を思い浮かべると、なんだかしっくりこない。
カチカチ……。
グラスの縁を優しく噛んだ。
何をやってるんだか……。
自嘲しながらそっとグラスを棚に並べた。
酒とチョコレイトでもてなしてくれた礼を用意するとリンデンに言ったけれど、さすがにあいつと同じくらい凝った趣向までは期待していないはずだ。
酒はリンデンに持ってこさせ、それを飲みながら俺の買ったこのチョコレイトを二人で食べるだけで充分だろう。
このチョコレイトが王都では売っていないものであることに気付くだろうか。
……リンデンのことだからそのくらいはすぐ気付くだろう。
さらにバレンタイン限定のものであると気付けば、あの男はきっと単純に喜んでしまう。
どうにかして俺をヤキモキさせた仕返しをしなければ。
そこらへんの悪知恵はアルザスの方がよく回る。
相談をし、奸計(かんけい)を授けてもらうことにしよう。
冗談めかして『他の奴に取られないか心配だ』なんて口にすることはあっても、素直な気持ちを見せることの少ないリンデンが、どんな風に俺への執着を見せてくれるか………。
その顔を見る日が楽しみだ。
《終》
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