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バスクさんも元兵士で、シューゲル大将のお手つきになってから従者になったそうだ。 一度仕込めば、余程のことがない限り自分から捨てるようなことはないと大将は胸を張る。 若い頃の憧れを取り戻したばかりだったのに…。 俺は目が覚めた。 俺はこの人に愛されることはない。 そしてこの人と俺とが交わることもない。 百年の恋もさめてしまう…というのとは違う。 シューゲル大将とバスクさんは、俺の目にはとてもお似合いに見えた。 シューゲル大将の館にうかがったときなどに、バスクさん以外のシューゲル大将がいうところの飼いネコの男性達にも会ったが、みんな気持ちのいい人ばかりだった。 大将は男の趣味が良く、ハーレムを上手に運営していた。 自分がこの中に加わるというのは考えられない。 けれど、こういうカタチがあるんだ、ということは素直に受け入れられた。 自分には向いていないと理解した上で、バスクさんたちの幸せそうな姿に素直に憧れ、うらやましいと思った。 逆に、シューゲル大将は俺がこういうスタイルを素直に受け入れ、なおかつ好意的に接することに驚いていた。 出世出世のお固い騎士をからかってやろうと思っていたのだから当然かもしれない。 そして俺の意外な柔軟性を気に入り、直属の部下としたのだ。 バスクさんたちの幸せそうな様子に猛烈に憧れた結果、俺は『お固い騎士』は卒業し恋に生きると決めた。 憧れたシューゲル大将に近づくために出世を目指したように、とにかく地固めを怠らないタイプの俺は、恋を手に入れるためにまず外見を磨いた。 ガチガチな雰囲気を崩し、肩に付くくらいまで髪を伸ばし、少しは柔らかで色気を感じさせる男になるように努めた。 とはいえ、騎士であることには変わりがない。 元来素質のないチャラチャラとした遊び人風となるのは無理だ。 騎士学校時代からの友人アルザスには、出世の鬼から学生時代に戻ったようだと歓迎された。 俺と一緒に先輩に憧れキャイキャイやっていた友人にそういわれて、今までどれだけ自分らしさを見失っていたのかに気付いた。 けれど、なぜか一向に胸を焦がす恋は訪れなかった。 軍隊では男同士の恋愛と言うのは珍しいものではない。 今は平穏だが、昔は死地に向かう可能性が高かった下級兵などに、妻帯し悲しませるより男同士の関係を選ぶ者が多くなり、そしていつしかそれが軍全体で一般化した。
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