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「『ななめ』って誰?知らないよ」 「お前だよ、お前。前髪斜めだからナナメ」 ドライヤーを止めて、肩をマッサージする。 ほせぇえなぁ。 「えー、やだよぉ、そんな呼び名」 まあ、嫌だろうな。 口のでかいあの男が知らない名前なら、なんでも良いんだ。 ミケでもハチでも……。 「じゃあ、ナナだ。で、ヤツはナナの彼氏かよ?」 里田の頭をポンポンとたたいてマッサージを終え、ブローを始める。 口のでかいあの男は、いつも、こうやって自由に里田の頭を触りやがる。 「違うよ、幼馴染だよ。颯太には駅のホームで毎日待ち合わせしている彼女がいるし」 バカだな、里田。 あの男の本命はお前だ。 「ん? ヤツは、その子が彼女だって、ナナに言ったか?」 ドライヤーの音が、やけに響く。 「……言ってない」 だろー。 「じゃあ、ナナはあいつに振られたのか?」 「何でそうなるのよ。颯太はそんなんじゃないんだ」 じゃあ、お前にとって奴は、ただの幼馴染か? 「ナナは他に好きな男子がいるのか?」 里田に顔見られたくなくって、斜めに切り揃えた前髪のブローを始める。 ほら、慌てて目、瞑りやがった。 「うーん。男子の中では颯太が一番好きかなぁ」 「だろー。お前、そいつの事、一度じっくり考えてみ?」 「考えるって?」 これ以上、言いたかねぇよ。 「はい、出来上がり、どうね?」 合わせ鏡で仕上がりを見せる。 かなりドキドキする。
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