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「どうだ?」
「自分なのに、何だか自分じゃないみたい」
俺もだよ。
「気に入った?」
「凄すぎー。お風呂入りたくないくらい気に入った」
そうだな、一生、風呂入るな。
「じゃあ御褒美だね」
里田に背を向けて部屋の隅へワゴンを運びながら、せがんでみる。
「うんうん、何がいい?」
「そうだな…」
里田の方に向き直す。
このくらい距離なきゃ、言えない。
「ナナに壁ドンして、、、」
驚いた?
「耳つぶして、、、」
驚いたよね。
「顎クイして、、、」
もっと俺は驚いてんだよ。
「キスしたい」
「キスはダメでしょう」
分かってるよ。
でも、俺は引き下がらない。
「残念、キスはダメなんだね」
里田の横に立ち、鏡越しに里田を見つめる。
「当たり前じゃん」
「分かった、じゃあ壁はないから椅子で」
里田の顔の両側に手をつく。
カットチェアーが小さく軋む。
揺れる斜めの前髪の下にある目がまん丸だよ。
「ナナ……」
顔をゆっくり近づける。
里田が目を閉じる。
いいのかよ?
いいのかよ?
いいのかよ?
ゴールを見つけられない俺の顔が、
里田の頬を彷徨う。
不意に、口のデカイあの男の顔が、頭ん中、横切った。
チクショウ、チクショウ、畜生。
俺のゴールはここだよな。
「ナナ…………」
大好きだよ。
「みーみーつーぶー」
耳元で呟いた。
「高河君。耳つぶって言ったし、あはははは……は」
諦めきれねぇ。
右手をチェアーから外し、里田の顎を持ち上げる。
勢いよく顔を近づける。
また、目、瞑りやがった。
《男子の中では颯太が一番好きかな》
唇が触れ合う寸前で、お前が頭ん中で笑う。
良い顔だ。
ずっと見てた顔だ。
俺の好きな顔だ。
「ねぇ、ナナ。今から颯太って奴に、イケてるナナを見せておいで」
ありがとう、里田。
バイバイ、里田。
「そうすれば、今までと全く違う、次の世界が始まるかも知れないよ」
俺は、急いで、胸ポケットから伊達眼鏡を取り出した。
もう少し、卒業するまで、こいつは必要。
だって、お前を直接、見れないから。
なぁ、里田。
お前の次の世界の幸運を祈る。
おしまい
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